労働関連・取引関連法規の総まとめ|11キーワードを過去問と具体例で学ぶ【ITパスポート】

在宅勤務のエンジニアに、常駐先の会社の課長が「今日はこの機能を優先して」と直接指示する——これ、実は違法になることがあります。「偽装請負」と呼ばれる状態です。ITパスポート試験では、こうした働き方や取引のルールを定めた法律が、ストラテジ系「企業と法務」の頻出テーマとして出題されます。この記事では労働関連・取引関連法規の11個のキーワードを、身近な具体例と過去問で整理します。
この記事で学べるキーワード
| 分類 | キーワード | ひとこと |
|---|---|---|
| 働き方のルール | 36協定 | 残業を認める労使協定 |
| フレックスタイム制 | 出退勤の時刻を自分で決める | |
| 裁量労働制 | みなし労働時間で働く | |
| ハラスメント | 職場の嫌がらせの防止 | |
| 契約の種類 | 請負契約 | 成果物の完成を約束 |
| 派遣契約 | 三者関係で働く | |
| (準)委任契約 | 業務の遂行を約束 | |
| 取引の約束 | NDA(秘密保持契約) | 秘密情報を守る契約 |
| 消費者を守る法律 | 特定商取引法 | 訪問販売などから消費者を守る |
| PL法(製造物責任法) | 欠陥製品の賠償責任 | |
| 取引のルール・適正化 | 中小受託取引適正化法 | 旧・下請法 |
いくつかのキーワードは、比較的新しくシラバスに加えられたものです。まずは表で全体像をながめてから、分類ごとに見ていきましょう。
働き方のルール
36協定
残業には、じつは会社と従業員の「約束」が必要です。その約束が36協定(サブロク協定)です。
36協定とは、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働について、会社と労働者の間で結ぶ協定のことです。簡単にいうと、「残業させてもいいですよ」というお墨付きを、あらかじめ取り交わしておく仕組みです。
名前の由来が試験の記憶フックになります。この協定は労働基準法の第36条に定められているため、条番号をとって「サブロク(36)協定」と呼ばれます。数字がそのまま名前になっている、めずらしいキーワードです。
まず前提として、法定労働時間は1日8時間・週40時間です。これを超えて働かせるには36協定が欠かせません。そして残業させる場合も、上限は原則として月45時間・年360時間までと決められています。青天井ではない点がポイントです。
試験でのポイント: 36=労働基準法の第36条。残業には労使の協定が必要という前提を押さえる。
フレックスタイム制
朝が弱い人にとってはうれしい制度が、フレックスタイム制ではないでしょうか。従業員が始業・終業の時刻を自分で決められる制度です。
ただし、まったくの自由ではありません。多くの場合、必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)と、その前後の自由に出退勤できる時間帯(フレキシブルタイム)に分かれています。たとえばコアタイムが10時〜15時なら、朝は7時から働き始めても9時に始めてもよい、というイメージです。
見落としやすいのは、自由なのは「時刻」であって、労働時間の管理がなくなるわけではない点です。会社は従業員の労働時間をきちんと把握する義務を負います。この点は、次に説明する裁量労働制との大きな違いになります。
試験でのポイント: 自由になるのは「出退勤の時刻」。コアタイムは勤務必須で、労働時間の管理は必要。
裁量労働制
裁量労働制は、実際に何時間働いたかに関係なく、あらかじめ労使で決めた時間だけ働いたとみなす制度です。「みなし労働時間制度」とも呼ばれます。
つまり「1日8時間働いたことにする」と決めておけば、6時間で仕事が終わっても、10時間かかっても、8時間分の賃金になるということです。仕事の進め方を働く人の判断(裁量)に委ねる代わりに、時間ではなく成果で評価する考え方です。研究開発やデザインなど、時間で成果を測りにくい専門業務・企画業務が主な対象です。
ここでフレックスタイム制との違いを整理しておきましょう。混同しやすい2つですが、「何が自由か」で分けると覚えやすくなります。
| 項目 | フレックスタイム制 | 裁量労働制 |
|---|---|---|
| 自由になるもの | 出退勤の時刻 | 仕事の進め方 |
| コアタイム | あり(勤務必須の時間帯) | なし |
| 労働時間 | 実際の時間で管理 | みなし時間で管理 |
| 主な対象 | 一般的な業務 | 専門業務・企画業務 |
覚え方は、時計をいじるのがフレックス、仕事のやり方をいじるのが裁量です。試験では、裁量労働制の説明をフレックスタイム制の説明にまぜて出す引っかけがよく登場します。
試験でのポイント: 「実際の労働時間によらず、あらかじめ定めた時間になる」なら裁量労働制。
ハラスメント
ハラスメントとは、職場における嫌がらせのことです。ITパスポート試験でも、防止に向けた事業主の取り組みという文脈で問われるようになってきました。代表的な3種類を押さえておきましょう。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| パワハラ(パワーハラスメント) | 優越的な関係を背景に、業務上必要な範囲を超えた言動で就業環境を害する行為 |
| セクハラ(セクシュアルハラスメント) | 性的な言動により不利益を受けたり、就業環境が害されたりする行為 |
| マタハラ(マタニティハラスメント) | 妊娠・出産・育児休業を理由とする不利益な取扱いや嫌がらせ |
近年は法律が改正され、パワーハラスメントについて、労働者の相談に応じる体制の整備などが事業主に義務づけられています。「起きてから対応する」のではなく、「起きないよう体制を整える」ことが求められている点が特徴です。
試験でのポイント: 事業主には相談体制の整備などの防止措置が義務づけられている、という方向で覚える。
契約の種類
IT業界では、システム開発を外部の会社に頼む場面が日常的にあります。その「頼み方」にはいくつかの契約類型があり、試験では区別が問われます。ここが今回のテーマのいちばんの山場です。
請負契約
請負契約は、仕事の完成を約束する契約です。約束するのは「成果物」であって、時間ではありません。
たとえばWebサイト制作を請負契約で頼んだ場合、受注した側はサイトを完成させて納品する義務を負います。完成しなければ報酬はもらえませんし、納品したものに欠陥があれば、一定期間は責任(契約不適合責任)を負います。その代わり、どう作るか・誰が作るかは基本的に受注側の自由で、発注側が作業を細かく指示することはできません。
試験でのポイント: 請負=「成果物の完成」を約束する。作業のやり方は受注側に任される。
派遣契約
派遣契約は、少しややこしい三者関係で成り立ちます。図で整理すると、次のような関係になります。
- 派遣会社と派遣労働者の間 → 雇用関係(給料を払うのは派遣会社)
- 派遣会社と派遣先企業の間 → 派遣契約
- 派遣先企業と派遣労働者の間 → 指揮命令関係(仕事の指示を出すのは派遣先)
ポイントは、雇っているのは派遣会社なのに、仕事の指示を出すのは派遣先企業だという「ねじれ」です。派遣労働者と派遣先企業の間に雇用関係はありません。なお、派遣された労働者をさらに別の会社へ派遣する「二重派遣」は認められていません。
試験でのポイント: 雇用は派遣元、指揮命令は派遣先。この分離が派遣契約の本質。
(準)委任契約
(準)委任契約は、業務の遂行そのものを約束する契約です。請負契約と違い、仕事の完成までは約束しません。
わかりやすいのはITコンサルティングや運用保守です。「必ずこの成果を出す」とは約束できないけれど、専門家として注意深く(善管注意義務といいます)業務にあたることを約束する、というイメージです。IT業界でよく耳にする「SES(システムエンジニアリングサービス)」も、この準委任契約の一形態です。
ここで請負契約との違いを整理しておきましょう。
| 項目 | 請負契約 | (準)委任契約 |
|---|---|---|
| 約束するもの | 成果物の完成 | 業務の遂行 |
| 義務 | 完成義務・契約不適合責任 | 善管注意義務 |
| 具体例 | Webサイト制作、システム開発 | ITコンサル、運用保守、SES |
覚え方は、「作り切る」のが請負、「がんばる」のが委任です。そして、この3つの契約を混同すると起きるトラブルが「偽装請負」です。
契約は請負や準委任なのに、実態としては発注側が受注側の従業員に直接指示を出している——これが偽装請負です。派遣契約でなければ、発注側が相手の従業員に指揮命令することはできません。それをやってしまうと、派遣のルールを逃れた違法な働かせ方になってしまうのです。判断の分かれ目は「作業場所」ではなく「誰が指揮命令しているか」で、この考え方はそのまま過去問で問われます。
取引の約束
NDA(秘密保持契約)
システム開発を外部に委託するとき、相手に自社の顧客データや設計書を渡すことがあります。そのとき交わすのがNDA(エヌディーエー、Non-Disclosure Agreement)、日本語で秘密保持契約です。過去問では次のように定義されています。
契約当事者がもつ営業秘密などを特定し、相手の秘密情報を管理する意思を合意する契約
(出典:ITパスポート試験 令和4年 問5)
簡単にいうと、「お互いに知った秘密を、外に漏らさない約束」です。ポイントは、まず「何が秘密情報にあたるか」を明確に決めるところから始まる点です。
IT業界では、開発の委託時だけでなく、フリーランスのエンジニアが案件に参加するときや、転職のときにも登場します。前職で知った技術情報や顧客リストを持ち出さない、というのもNDAの働きです。身近に感じられるのではないでしょうか。違反すると、損害賠償請求の対象になります。
試験でのポイント: NDA=秘密保持契約。「営業秘密の特定」と「秘密情報を管理する意思の合意」がキーワード。
消費者を守る法律
特定商取引法
ここからは、私たちが消費者として関わる法律です。突然の訪問や電話で高額な商品を勧められた——そんなトラブルから消費者を守るのが特定商取引法です。過去問の問題文が、そのまま定義になっています。
訪問販売や通信販売などのトラブルが生じやすい取引において、消費者を保護するために、事業者が守るべきルールを定めた法律
(出典:ITパスポート試験 平成26年度秋期 問5)
この法律で覚えておきたいのがクーリングオフです。契約したあと一定期間内なら、消費者側から無条件で契約を解除できる制度です。ただし、ここに試験で狙われる落とし穴があります。
自分の意思でじっくり選んで買う通信販売(ネット通販など)には、クーリングオフ制度がありません。「ネットで買ったものはいつでも返せる」と思い込んでいると引っかかります。突然勧誘される訪問販売にはクーリングオフがあるのに、自分から注文する通信販売にはない——この対比で覚えておきましょう。
試験でのポイント: 押しかけられる取引にはクーリングオフあり、自分から買う通信販売にはなし。
PL法(製造物責任法)
PL法(Product Liability、製造物責任法)は、製品の欠陥で消費者が被害を受けたときに、製造者に賠償責任を負わせる法律です。
この法律の最大のポイントは無過失責任という考え方です。ふつう損害賠償を求めるには、相手の故意や過失を証明しなければなりません。ところがPL法では、消費者は「製品に欠陥があったこと」を証明するだけでよく、製造者にわざとやミスがあったかどうかまでは証明しなくてよいのです。専門知識のない消費者を守るための、強い仕組みです。
もうひとつ試験で問われるのが対象範囲です。PL法の対象は「製造・加工された動産」、つまり形のある製品です。そのため、アプリのバグそのものはPL法の対象外です。ただし、その制御ソフトが車などの製品に組み込まれ、その製品の欠陥として事故が起きた場合は、製品の欠陥としてPL法の対象になり得ます。
試験でのポイント: PL法=無過失責任。「欠陥の存在」だけ証明すればよく、故意・過失の証明は不要。
取引のルール・適正化
中小受託取引適正化法
最後は、会社どうしの取引を公正に保つ法律です。中小受託取引適正化法は、発注する側が立場の弱い受注側に不当な要求をしないよう定めた法律です。
この法律には知っておきたい背景があります。もともとは「下請代金支払遅延等防止法」、通称「下請法(したうけほう)」という名前でした。それが改正され、対象を「下請」から「中小受託取引」へと広げるかたちで、名称も新しくなっています。時事的な改正なので、旧名の下請法とセットで覚えておくと安心です。
規制の中身は下請法の時代から引き継がれています。代表例が支払遅延の禁止です。受け取った日から一定期間内に代金を支払う義務があり、不当な値引きや買いたたきも禁止されています。新旧の名前がひもづくよう、「旧・下請法」とセットで押さえておきましょう。
試験でのポイント: 中小受託取引適正化法=旧・下請法。発注側と受注側の対等な取引を目指す法律。
過去問に挑戦
それでは、今回の山場だった契約類型から、実際の過去問を1問解いてみましょう。偽装請負を見抜けるかどうかがカギです。
腕試し問題
出典:ITパスポート試験 令和7年度 問1
A社がB社に作業の一部を請負契約で委託している。作業形態a ~ cのうち、いわゆる偽装請負とみなされる状態だけを全て挙げたものはどれか。 a B社の従業員が、A社内において、A社の責任者の指揮命令の下で、請負契約で取り決めた作業を行っている。 b B社の従業員が、A社内において、B社の責任者の指揮命令の下で、請負契約で取り決めた作業を行っている。 c B社の従業員が、B社内において、A社の責任者の指揮命令の下で、請負契約で取り決めた作業を行っている。
解答と解説
正解はウです。
正答の理由
偽装請負かどうかは、作業場所ではなく「誰が指揮命令しているか」で判断します。B社に委託した仕事なのに、発注側のA社が直接B社の従業員へ指示を出していれば偽装請負です。aとcはどちらもA社が指揮命令しているため偽装請負にあたり、この2つを挙げたウが正解になります。
誤答の解説
- ❌ ア「aだけ」→ cもA社が指揮命令しているため、偽装請負を1つ見落としています
- ❌ イ「a, b」→ bはB社の責任者が指揮命令する正常な請負なので、含めてはいけません
- ❌ エ「b, c」→ 正常な請負のbを含み、偽装請負のaを落としているため誤りです
ポイント
- 判断基準は「作業場所」ではなく「誰が指揮命令しているか」
- 発注側(A社)が受注側の従業員に直接指示 → 偽装請負
- 場所がA社内でも、B社が指揮命令していれば正常な請負
まとめ
| キーワード | 一行まとめ |
|---|---|
| 36協定 | 残業を認めるための労使協定。労働基準法第36条が由来 |
| フレックスタイム制 | 出退勤の時刻が自由。労働時間の管理は必要 |
| 裁量労働制 | みなし労働時間で働く。専門業務・企画業務が対象 |
| ハラスメント | 事業主に相談体制の整備などの防止措置が義務 |
| 請負契約 | 成果物の完成を約束する |
| 派遣契約 | 雇用は派遣元、指揮命令は派遣先 |
| (準)委任契約 | 業務の遂行を約束する。SESもこの一種 |
| NDA(秘密保持契約) | 秘密情報を漏らさない約束 |
| 特定商取引法 | 通信販売にはクーリングオフがない |
| PL法(製造物責任法) | 無過失責任。欠陥の証明だけで足りる |
| 中小受託取引適正化法 | 旧・下請法。取引の適正化を図る |
キーワードは多いテーマですが、3つの軸で束ねると頭の中が整理できます。「何が自由か(働き方)」「誰が指揮命令するか(契約)」「誰を守る法律か(消費者・受注者)」です。とくに偽装請負とクーリングオフの通信販売は、引っかけの定番です。仕上げに、まとめの表で区別のしかたを見返しておきましょう。


