ITガバナンスとは?ITのかじ取りを経営者が担う理由【ITパスポート】

新しいシステムを入れるか、ITの予算をどこに使うか——その方針を決め、責任を負うのは誰でしょうか。ITパスポート試験の過去問が正解にしているのは、システム部門長でも株主でもなく、経営者です。理由をたどると、ITガバナンスの中身と、試験で狙われるシステム監査との違いが見えてきます。
ITガバナンスとは
ITガバナンスとは、ITに関わる活動全体を、会社が目指す姿へ向けて統制し、導く仕組みです。
企業が、ITの企画、導入、運営及び活用を行うに当たり、関係者を含む全ての活動を適正に統制し、目指すべき姿に導く仕組みを組織に組み込むこと
(出典:ITパスポート試験 平成27年春期 問42)
簡単にいうと、会社のITが経営の方向からそれないように、かじを取ることです。対象はITの企画から活用まで、関係者を含む全ての活動で、情報システム部門の中だけの話ではありません。誰か1人の頑張りに頼るのではなく、組織の仕組みとして組み込むものだと押さえておきましょう。
ガバナンス(governance)の語源をたどると、もとは「船のかじを取る」という意味のラテン語 gubernare に行き着きます。定義にある「目指すべき姿に導く」は、まさにかじ取りのイメージです。
ITガバナンスはコーポレートガバナンスにとって、不可欠な要素の一つである。
(出典:ITパスポート試験 平成26年秋期 問34)
会社全体のガバナンスのうち、ITを受け持つ部分という位置づけです。シラバス(Ver.6.5)では、マネジメント系の「システム監査」の中にある「内部統制」の項目に、内部統制と並んで載っています。
具体例でイメージをつかむ
たとえば平成28年春期 問35 では、「ITガバナンスの実現を目的とした活動の事例」としてこれが正解でした。
業務効率向上の経営戦略に基づき社内システムをどこでも利用できるようにするために、タブレット端末を活用するIT戦略を立てて導入支援体制を確立した。
(出典:ITパスポート試験 平成28年春期 問35)
まず経営戦略(業務効率の向上)があり、そこからIT戦略を立て、導入を支える体制まで整えています。ITの判断が、経営の方向から出発していることに注目してみてください。誤答は、担当者でない人が独断でシステムを直す、機器を耐震テープで固定する、といった選択肢で、どれも経営戦略から出発する流れは書かれていません。
では、経営者がITのことを全部自分でこなすのかというと、そうではありません。
経営者がITに関する原則や方針を定めて、各部署で方針に沿った活動を実施する。
(出典:ITパスポート試験 平成30年春期 問40)
この問題では「活動は全て経営者が行う」とした選択肢が誤りでした。平成30年秋期 問41 は、分担をもう一段細かく問うています。

方向は経営者が示し、各部署はそれに沿って動きます。ITガバナンスは会社全体のガバナンスに欠かせない一部なので、そのかじも経営者が握ります。
システム監査との違い
ITガバナンスの問題では、システム監査やシステム監査人が誤答に繰り返し並びます。表で並べてみましょう。
| 観点 | ITガバナンス | システム監査 |
|---|---|---|
| 担い手 | 経営者が責任を負う | 独立かつ専門的な立場のシステム監査人 |
| 主に評価するもの | ITの利用が事業の目的に合っているか | リスクに対するコントロールの整備・運用 |
| 関係 | かじを取る側 | 評価を通じて、ITガバナンスの実現に寄与する |
令和2年 問41 も、システム監査人が独立かつ専門的な立場から評価することで、ITガバナンスの実現に寄与すると書いています。迷いやすいのは「評価」という語です。経営者もITの利用を評価するので、責任を負って導く側か、独立した立場で確かめる側かで見分けてみてください。

覚え方は「責任を負って導くのは経営者、独立して確かめるのは監査人」です。なお、顧客のニーズに合うサービスのために、情報システムの運用を維持管理し、改善し続ける取組みはITサービスマネジメントです。平成29年秋期 問52 では、ITガバナンスは誤答でした。
試験ではこう出る
ITパスポート試験の平成21年春期〜令和7年の28回で、ITガバナンスが問題文か正解の選択肢に出るものは21問あり、平成21年春期から令和6年まで出ています。よく出るのは、誰が担うかを問う形と、説明文を選ぶ形の2つです。
責任者を選ぶ問題の正解は経営者で、株主・システム部門長・システム監査人などが誤答に並びました(平成29年秋期 問49、令和元年秋期 問53)。令和6年には、経営者が評価するITの利用がいつのものかを問う穴埋めも出ています。
経営者は、[a]の事業の目的を支援する観点で、効果的、効率的かつ受容可能な[a]のITの利用について評価する。
(出典:ITパスポート試験 令和6年 問53)
正解は「現在と将来」です。ITガバナンスの規格 JIS Q 38500 の規格概要にも、「現在及び将来のITの利活用」という言葉があります。今だけでも先だけでもなく、両方と覚えておきましょう。
説明文を選ぶ形は、年度によって言い回しが変わります。令和4年の1問で確かめてみましょう。
腕試し問題
出典:ITパスポート試験 令和4年度 問40
ITガバナンスに関する記述として、最も適切なものはどれか。
解答と解説
解説(解答せずに開けます)
正解はウです。
正答の理由
定義として引用した平成27年春期の説明とは、言葉がかなり違います。それでも、経営の側が担うこと、情報システム戦略を立てて実現するための力であることが読み取れます。シラバス(Ver.6.5)の説明も、組織体の価値を高めるために、IT戦略と方針を策定し実現する活動という、この選択肢に近い書き方です。
誤答の解説
- ❌ ア「…ベストプラクティスを集めたもの」→ ITIL(Information Technology Infrastructure Library)の説明です。平成24年春期 問42 では、ITサービスマネジメントのベストプラクティスを集めたフレームワークとしてITILが正解でした
- ❌ イ「…作業項目の一つ一つを定義して標準化したもの」→ 共通フレーム(SLCP)の説明です。平成22年春期 問37 では、ほぼ同じ文の正解がSLCPでした
- ❌ エ「プロジェクトの要求事項を満足させるために、…」→ プロジェクトの活動に知識や技法を当てはめる話で、対象は個々のプロジェクトです。ITの戦略全体を導く話ではありません
ポイント
- 言い回しが変わっても、ITの戦略を立てて実現するところまでを、経営の側から導くという骨格を探す
まとめ
- ITガバナンスは、ITに関わる活動全体を統制し、会社が目指す姿へ導く仕組み。過去問では「組織能力」とも書かれる
- 責任者は経営者。原則や方針は経営者が定め、各部署は方針に沿って動く
- コーポレートガバナンスにとって、不可欠な要素の一つ
- システム監査は、独立かつ専門的な立場から評価して、ITガバナンスの実現に寄与する
- 経営者が評価するのは、現在と将来のITの利用
ガバナンスの語源は「かじを取る」でした。かじを握って責任を負うのは経営者、独立した立場から確かめるのは監査人です。この2つを分けておけば、言い回しが変わる説明文の問題も、落ち着いて読めるのではないでしょうか。


